【復刻】ロボコン向けモータドライバの作り方 Vol.4
MOSFET以外の部品について
前回はMOSFETについてふれました.今回はその他の周辺の部品やちょっと気にしたほうがいいことについて書こうと思います.
ゲートドライバとアイソレータについて
FETを駆動させてやるにはゲート-ソース間の電圧を変化させてやればいいということはわかってもらえたかと思います.しかし,FETには寄生容量が存在するため電圧を変化させてもすぐにゲートの電圧は変化しません.この容量を充放電するためにスイッチングの時だけ一時的にゲート電流が流れます.FETをONにするときは寄生容量を充電するために充電電流が流れ,OFFのにするときは放電するための放電電流が流れます,このゲートの寄生容量をいかに早く充放電できるかによってFETのスイッチング速度,スイッチング損失が決まってきます.ゲート寄生容量をどれくらい早く充放電できるかはゲートに瞬間的にどれだけの電流を流せるかによって決まります.
さて,モータドライバはFETを駆動してやるということで話を進めてきましたが,PWMのように高速でFETをスイッチングさせてやろうと思うと実はまだゲートに対しての電流が足りません.そこでゲートドライバを使用します.モータドライバのスイッチング速度はゲートドライバの性能に左右されます.
しかも直接マイコンからFETを駆動しようと思うと同じ回路上に接続する必要があります.要はGNDが同じわけです.まあ大電力を扱う回路なのでノイズがたくさん出てくるのは承知でしょう.ノイズがたくさん出る回路とGNDを接続したいですか?僕はなるべく控えたいです.なのでマイコンから「ゲートドライバ」という回路を駆動させこれによってFETを駆動させます,
マイコンからの入力信号を元にFETのゲート電位を操作するための電力を供給し,かつマイコンなどの制御回路とFET,負荷(モータ)などの大電力回路との絶縁という役割をゲートドライバは担うことが多いです.*1このゲートドライバですが,東芝製の「TLP250」がわりと有名です.(まあTLP250自体はもうディスコンだけど)後に書きますが,FETのスイッチング時間はゲートドライバの流せる電流とゲート抵抗の値で決まります.なのでなるべく電流が流せるゲートドライバを選択した方がいいでしょう.東芝の他にも,ロボコンで使われるクラスのFETを駆動できるゲートドライバを製造しているメーカとしては,
- Analog Devices
- AVAGO Technology
- Allegro MicroSystems
- intersil
- infineon Technologies
- International Rectifier
- Texas Instruments
- On semiconductor
等が挙げられます.
そういえば今年のはじめにinfineonがInternational Rectifierの買収を完了したというニュースがありましたね,パワー半導体に強いイメージを持つ企業が1つになって僕は非常に驚きました.また,11月にもOn SemiconductorがFairchildを買収すると発表しました.この他にも2015年は大手半導体メーカーがかなりM&Aをしていましたね.
コンデンサ
電源の近くになるべく大きいコンデンサを入れます.(みんな大抵電解コンデンサを使う)ここにコンデンサを入れるといろいろな効果があります.
- サージ電圧を吸収(ノイズ対策)
- アバランシェエネルギー低減
- パンチアップ(起動時に流れる大電流の補助)
などですかね,電解コンデンサは熱に弱いのでなるべく発熱部品から遠い&風通りのいい場所に配置してあげましょう.
あと,ここもMOSFETのドレインーソース間電圧と同じで電源電圧の2倍の電圧が印加されるので耐圧は電源電圧の2倍以上のものを選択したほうがいいと思います.
加えて,コンデンサの位相角が0°に近づいた時の抵抗値を等価直列抵抗(ESR)といい,より低いもの製品を選択するといいらしいです.
ただ,コンデンサの容量が大きいと電源との接続時に,充電のために一瞬大電流が流れるのでコネクタにスパークが生じることがあります.
ゲート抵抗
FETのゲートに流入する電流を決めます.流せる電流はゲートドライバに依存するため,ゲートドライバが流せる電流を確認してからゲート抵抗は値を計算します.
このが小さいほどスイッチング時間が早くなリますが,ゲートに流入,流出する電流の時間変化が大きくなるのでノイズが増大し,誤動作の原因になります.かといって大きくし過ぎると立ち上がり,オフ時間が長くなるため,スイッチング損失が増大し,素子の異常発熱,破損の原因になります.
よってオシロスコープで波形を確認しつつ最適な抵抗値を決定する必要があります.実験結果やオシロスコープの波形が掲載されているトランジスタ技術2015年1月号の特集が参考になると思います.
デッドタイム
ハイサイド,ローサイドのFETが両方共OFFになる期間の時間のことをデッドタイムと言います.FETのゲート部分はRC直列回路*2とみなすことができます,よってFETをONにしてもゲート電位は一次遅れ的に上昇していきます.
一瞬でONになることはありません.OFFの時も同様です.
これらのFETがON,OFFになるまでの時間をそれぞれオン時間,オフ時間と呼びます.
よって,FETのハイサイドとローサイドのON,OFFの切り替えを同時に行うとわずかに両サイドのFETが同時ONになる時間が存在することになります.この時電源が短絡状態になるので大電流が流れます,アーム短絡電流,貫通電流ともいいます.
加えて,FETには寄生ダイオードが存在し,順方向電流→逆方向電流が流れるときに一定時間制御できない時間があります,これを逆回復時間と言います.
このオン,オフ時間,寄生ダイオードの逆回復時間よりもデッドタイムは長く設ける必要があります.(デッドタイムを攻めるなら「オフ時間-オン時間」とかもありだけど…)
ですのでデッドタイムをしっかしと設けてやらないと貫通電流が1秒あたりPWM周波数×2回FETに叩き込まれるのでFETの温度がどんどん上昇して最終的に破損,燃える原因になります.
しかしながらデッドタイムを長くし過ぎると制御性に支障が生じるため,長すぎず短すぎずの最適な時間を設ける必要があります.
プルアップ,プルダウン抵抗
FETのゲート-ソース間に抵抗を接続してやることにより,ゲートドライバが駆動していない時にゲート電位が不定になって,勝手にFETがONになるのを防ぎます.
しかし,挿入した抵抗値が大きすぎると「セルフターンオン現象」という現象が生じます.
その名の通りFETが勝手にONになってしまうため貫通電流,破壊の原因になります.
このため,プルアップ,プルダウン抵抗はセルフターンオン現象が生じない程度の抵抗値をにするる必要があります.セルフターンオン現象はの比が大きいほど発生する可能性が上がります.(各半導体メーカーもこの比を小さくできるように頑張っている)セルフターンオン現象の詳細は前回も紹介した図で見てわかる パワーMOSFET<技術と回路>入門が参考になります.
放熱,冷却
ここまで散々FETの温度が上昇して壊れると言ってきましたが,ここまでしつこく言われたらみなさん思いませんか?
だったらFET冷やせばいいじゃん
はい,全くそのとおりです.みなさんFETは放熱をしっかりしましょう.ヒートシンクなどの熱抵抗が低いものを取り付けてやることによって熱をFETから逃すことが大事です.また,PCみたいに冷却ファンをつけるのもおすすめです.強制空冷は偉大です.僕は冷却ファンつけてからFETを一度も燃やしていません(執筆当時)
FETが燃えてしまった時,より大電流を流せるFETに取り替えるよりヒートシンクや冷却ファンをつけてやったほうがスマートだと思います.(ここらへんは各自のお好みで)
ディスカッション
コメント一覧
このシリーズを拝読しています。
読んでいると、技官の方に実装方法を指導してもらいながらモータードライバーを設計・製作したことが昨日のことのように蘇ります。
ところで記事中の回路図はこの記事のために作られたのでしょうか?
ありがとうございます.
回路図自体は調べた中で一般的なものであり,図は書籍をもとにillustratorにて作成しました.