【復刻】ロボコン向けモータドライバの作り方 Vol.3

MOSFETについて

モータドライバの最も重要である部品,MOSFET*1について書こうと思います.


Device Plusさんの発行している
ロボット相撲設計技法
〜運動解析からはじめるロボット設計のススメ〜

の「第2編 モータドライバ設計編」や,以下の2つの本は僕が現役時代に非常にお世話になった資料です.これもぜひ読んでみてください.

半導体メーカが発行しているアプリケーションノート,これらも非常に参考になります.
(正直なところ,僕が書いていることはこれらの資料から特に必要だと思ったものを掻い摘んで書いてるようなものなので,より詳しく知りたい人は是非読んでください)
ルネサスエレクトロニクス パワーMOSFETアプリケーションノート
最近はIGBT*2もよく聞きますので,こちらも検討してください.ただ今回はMOSFETという前提で話を進めます.

Contents

P,N

トランジスタは接合の仕方によりP型,N型が存在します.
モータドライバを作る際には,P型,N型を併用する組み方(PN混合型)とすべてN型の組み方(フルN型),どちらで組むかも重要なポイントになってきます.それぞれのメリット,デメリットを挙げてみます.

PN混合型

  • 回路を比較的シンプルに組める
  • P型MOSFETはN型に比べて値段あたりの性能が低いので,性能をあげようと思うと値段が上がりがち

フルN型

  • P型より高性能なN型ですべて構成可能*3
  • モータに印加する電圧より高い電圧が必要になるた,回路が複雑になりがち

電源電圧に規定があるロボコンでは難しいところがあります(一時的とはいえ電源電圧より高い電圧を作ることについては毎年議論&グレーな感じがしている,というか正式に返答が帰ってこない,ぶっちゃけるとめんどくさい
と言ったものの,カッコで括った部分は僕が現役時代の話であって,最近は少し動きがあったようです.学生ロボコン2016のルールブックの 4.1.6.2によると,

それぞれのロボットに印加される電源の電圧は公称24V以下とする。
安全のため回路内最大電圧は42V 以下におさえること。

とあります.つまりは学生ロボコン2016では正式にフルN型のモータにドライバが認められたということなのではないでしょうか?

MOSFET の選び方

以前も書きましたが,モータドライバの回路は機械的,電機的仕様に合わせて決める必要がありま す.その中でも MOSFET が重要な素子となります.極端なこと言うと,「モータドライバの仕様≒ MOSFET の仕様」となるのではないでしょうか.ここでは MOSFET(以下文中では FET)の選び方について書いてい こうと思います.

MOSFETのパラメータ

MOSFETを選定する際には様々なパラメータがあります.これらはデータシートに記載されています. よく読みましょう.

ドレイン-ソース間電圧[V]
MOSFET のドレインとソースの間に印加できる最大電圧であり MOSFET を選定する上で最も重要な項目 です.モータは逆起電力と電流の関係から,回路には最大で(瞬間的には)電源電圧の2倍の電圧が印加されることになります.(目標値を一気に逆方向に切り替えた時とか)よっては最低 でも電源電圧の2倍以上の製品を使用する必要があります.(ただしアバランシェ耐量を規定しているものはこれに限らないよう…)
(2016-04-05 いろいろ違った通説などがあったので修正)
モータに印加する電圧より高いものを選びます.ただしモータ内部と比較したら微々たるものですが,配線にもインダクタ成分は含まれているので少しは電源電圧より高くなります,ですのでドレイン-ソース間電圧にはある程度マージンを持っておく必要があります.(このマージンが2倍というので諸説あり?)

ドレイン電流[A]
この FET が流すことのできる最大電流です.連続電流とパルス電流があります.

連続電流は温度を保ち続けている(大抵 25 ℃くらい)場合の電流です.このため実際に使うときに 流せる電流はだいぶ減ります.これは FET 内部のシリコンの部分の温度(チャンネル温度)で決定するため,温度変化が性能を大きく左右します.基本的に連続電流はチャンネル温度が 150 ℃以下という前提条件がつき ます.チャンネル温度が上昇するとFETが流せる連続電流は減少していきます.このため,放熱,冷却による温度の低下より連続電流での発熱による温度上昇が上回っていると,徐々にチャンネル温度が上昇していく ために,同じ電流を流していても一定時間したら FET は爆ぜることになります.

パルス電流は瞬間的に流せる電流になります,これもチャンネル温度に依存し,周囲温度や放熱によって左右されます.モータの起動,停止時には瞬間的に大電流が流れます.この電流がモータに接続されたFETに流れる最大電流となるため,データシートを参照してパルス電流が起動電流より大きい FET を選定する必要があります,ここらへんを頭の片隅においておくと後ほど書くSOAのことがわかってもらえるかと思 います.

オン抵抗[Ω]
ドレイン-ソース間の内部抵抗です.FETがONの時はこの内部抵抗を通過して電流が流れるので,この抵抗の大きさで FETでの熱損失の量が決まります.ここで発生した熱は FET の温度を上昇させるので,オン抵抗はなるべく小さいものを選びます.

ゲート-ソース間電圧[V]
ゲートとソースの間に印加できる最大電圧です.以上の電圧がかかるとゲートの酸化膜が破壊されたり,酸化膜内部のイオン増加による経年劣化が発生する可能性があるため注意しましょう.

ゲート閾値電圧[V]
MOSFETのON/OFF が切り替わる時の電圧です.高速でFETをスイッチングするにはゲートの電圧をいかに早くに変化させるかが鍵となります.

トータルゲートチャージ[C]
ゲートに電圧が加わった時,寄生容量を充電するために必要な電荷量です.寄生入力容量と密に関係してい ます.入力容量が大きくなると,その入力容量を充電するために電荷量がたくさん必要となり.反対に入力容 量が小さい場合には少ない電荷量で充電することができので,限定された電流で寄生容量を充電するにしても 短い時間でゲート容量の充電に必要な電荷量が供給できます.よって,このゲート電荷量も FET のスイッチ ング時間を左右するパラメータとなっています.

アバランシェ耐量[J]
インダクタンス成分が存在すると,回路に流れている電流を遮断する際に,インダクタ成分が蓄えたエネルギーをFETに寄生するダイオードを通って放出されます.この時放出されるエネルギーをアバランシェエネルギーといい,このエネルギーに耐えれる量を示します.この値が高いほど良い FET と言えます.詳細はこれ*4を読んでください. 綺麗に数式がかけなかったので後日追加します.
回路に含まれるインダクタンス成分Lなどから計算するとそのFETに発生するアバランシェエネルギー量がわかります.製造しているメーカによってはデータシートに記載していないものもあるため,記載してあるFETを使ったほうが見積もりしやすいです.

MOSFET のパッケージ

スルーホール型,表面実装型などいろいろなタイプがあります.ハンダ付けのしやすさ,放熱板の取り付けさすさなどに関わってきますね.まぁココらへんは各自のお好みで

MOSFETの破壊モード

FETが燃える,爆ぜると一概に言っても,どのパラメータを超えてしまったかによって壊れ方は違ってき ます.ただ実際のところ FET の破壊はチャンネル温度に起因するものが大半であるため,「どのようにして FET のチャンネル温度が上昇するか」が破壊モードのポイントになってきます.
下記のサイトは破壊モードに関して図とともに書かれているのでこれもどうぞ
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/5348/fet.html

静電破壊
冬によくパチッてする静電気は電圧でいうと数万 [V] くらいあります.FETの耐圧なんかめじゃありませ ん.FETは静電気対策を施して優しく取り扱ってあげましょう.

SOA破壊
SOA(ASO ともいう)はSafe Operation Areaの略であり名の通りFETが破壊されずに安全に動作できる領域の事を言います.要は「◯ [V]の電圧で◯[A]流しても◯ [s]の間なら動作できる」というものです.い ろんな条件によってこの領域が決まりますが,この領域からはみ出ている範囲で動作させると爆ぜます.

アバランシェ破壊
発生するアバランシェエネルギーがFETのアバランシェ耐量を超えると爆ぜます.先程も書きましたが,電流を遮断する際にアバランシェエネルギーが発生すので,モータが回転していて,回転を急激に0にした時にFETが爆ぜたらアバランシェ破壊といえるでしょう.シーズン中にやらかしました.
2016/04/05 追記
配線などのインダクタ成分は微々たるものと書きましたが,あまりにも配線がひどかったりインダクタ成分が多い配線を使うと生じる可能性はあるので「絶対にアバランシェは破壊はない」とは言い切れないですが,ほぼ生じないみたい…

ダイオード破壊
寄生ダイオードが FET 内部の寄生トランジスタを動作させてFETが破壊する現象です.ですが,ここ最近ダイオード破壊による破損はかなり少なくなってきたため,そこまでシビアにならなくてもいいと思います.ロボコンで使うようなモータドライバは SOA 破壊やアバランシェ破壊が非常に多いです.

ゲートの寄生発振
配線のインダクタ成分(すごく少ないけど)とFET のコンデンサ成分によって共振回路が生成されるので,発振しやすいです.ゲート抵抗ががないとQ値が非常に大きくなります.増幅されたゲート電圧(> )によってFETが破損します.適切にゲート抵抗を挿入しましょう.ゲート抵抗はスイッチング時間にも依存するのでまた注意が 必要です.また,FETを並列に接続して回路を構成する場合にも寄生発振が生じやすいので注意が必要です.

*1:Metal-Oxide-Semiconductor-Field-Effect Transistor 電界効果トランジスタ

*2:Insulated Gate Bipolar Transistor 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ

*3:半導体の特性上,同一面積,体積であればN型のほうが性能が高い

*4:http://www.irf-japan.com/web/technical-info/appnotes/AN-1005J.pdf