【復刻】ロボコン向けモータドライバの作り方 Vol.2

DCモータについて

モータを駆動する回路を作るためにはモータのことをちょっと知っておく必要があります.ではざっくりとモータについて触れておこうと思います.


数あるモータの種類の中でも今回は「ブラシ付きDCモータ」を取り上げます.ブラシ付きDCモータはロボコンにて最も広く使われているモータであり*1ロボコニストも「モータ」と言われればブラシ付きDCモータを思い浮かべるかと思います.ブラシ付きDCモータの特徴は

  • 端子が2つであり,電極の極性を入れ替えれば回転方向が変化する
  • 電流とトルクが比例
  • 電圧と回転数が比例
  • 効率が高い
  • 摺動部(ブラシとコミュテータの接触部分)でノイズが生じる
  • 摺動の摩擦,汚れにより寿命が制限される

このブラシ,コミュテータこそがブラシ付きモータの最大の特徴です.

コア(ード)モータとコアレスモータの違い

ブラシ付きモータは更にコア(ード)モータとコアレスモータに分類ができます.
それぞれのモータを実際にバラしてみました.
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一般的なコア(ード)モータの内部構成 (日本電産サーボ株式会社 DME34BB)
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一般的なコアレスモータの内部構成 (Maxon Motor RE35)

モータ内部の電機子鉄心のことを「コア」と呼びます.コアモータはロータ(回転子)とコアが固定されており,コアに巻線が固定されています.このため,コアモータはコアとロータが共に回転します.
これに対し,コアレスモータは前述のコアがロータと共に回転しません.コアレスモータはコアは回転せずに巻線のみが回転するのでムービング・コイル型モータとも呼ばれます.コアレスモータがコアモータより優れている特徴としては

  • 時定数が小さい
  • コギングトルクが非常に小さい

という点があります.

また,速度,位置制御に用いるモータをサーボモータ*2と呼ぶ事があります.応答性が高く急激な加減速に対応できて,トルクリップルやコギングトルクを小さくして滑らかに回転するように作られています.
応答性の尺度の一つにトルク慣性比(モータの起動トルクとロータ慣性モーメントの比)があります.まぁ物理の勉強をしていれば ピンとくると思いますが,要は「モータの出せる最大角加速度」という認識でいいと思います.

{ \frac{T}{I} = \frac{d\omega}{dt} } ←こんな感じ

トルク慣性比を高くする方法は以下のようなものが挙げられます.

  • ネオジム磁石などの高性能永久磁石を使用して起動トルクを大きくする.
  • ロータを小径,細長形状にしてロータ慣性モーメントを小さくする.

コアレスモータは上記の特性を手に入れやすいため,サーボモータはコアレスモータが使われることが多いです.コアレスモータとしてよく知られている&ロボコニストがよく知っている製品にMaxon Motorがあります.
MaxonMotorはステータの永久磁石にネオジム磁石(磁束密度{B}が大きい)を使用しており,マブチモーター*3などのコアモータに比べて細長い(半径が小さい→慣性モーメント({I=m{r}^2\label{Inertia} })の{r}が小さい)ことがわかります.これらは先ほど挙げたトルク慣性比を高くするための方法まさにそれですね.
ここではコアレスモータがコアモータより優れた点をあげましたが,劣っている点ももちろん存在します.

  • 熱に弱い
  • 製造方法が複雑なため,コアモータより基本的に高価

ブラシレスDCモータについて

先ほどブラシ付きDCモータについて取り上げましたが,ここで最近のロボコンでも使われ始めてきた「ブラシレスDCモータ」について,少し触れておこうと思います.これまでで取り上げたブラシ付きDCモータは,内部の磁界の切り替えをブラシとコミュテータで行います.このため摺動によるロス,摩耗が生じるので効率の低下が生じます.この問題を解決したがブラシレスモータです.磁界の切り替えをブラシ,コミュテータを用いて機械的に接点を切り替えるのではなく,電子回路を用いて行います.

  • ブラシ付きDCモータと基本的な特性は同じ
  • 形状や構造の自由度が高く,用途に合わせた設計が可能
  • 機械的な接触が軸受けだけなので長寿命が期待できる.
  • 専用の駆動回路が必要

正直なところ最後の項にあげた専用の駆動回路(ブラシレス用モータドライバ),これがわりと複雑になるのでロボコンで使用するには自作するより素直に対応したアンプを買っほうが楽なことが多いと思います.
といっても用途によりますが(僕自身まだ作ったことがないので大したこと言えません)
たいていショップではESC*4って名前で売られていますね.ラジコンサーボのように適切な信号をマイコンから入力してやれば動きます.加えてブラシ付きDCモータより出力/重量の比が大きいです.
ただ調べたところ出力は回転数として出てくるので,トルクがほしい時には比率の大きい減速機を噛ませないと扱いづらいかもしれません.

また,ブラシレスモータを使用して確実に速度制御をしたい,という場面が出てくるかもしれません,このような用途になってくるとラジコンのアンプは駆動に適さなくなってきます.サーボ信号の入力からモータの回転への出力がかなりブラックボックスになってしまいます.「それでも動けばいいじゃん」という人もいるでしょう.もちろんいいと思いますが僕が自分で回すときはちゃんと制御したいです.
ここで調べた結果,僕が行き着いたキーワードはベクトル制御です.この制御を使うとブラシレスモータを効率的に回せるようです.ただこれを実現するための回路が最初に書いたように複雑になりますし,制御プログラムもかなり複雑になります.少なくともブラシ付きDCモータをいい感じに制御出来ないとブラシレスDCモータの制御なんて出来る訳がないみたいです.

ブラシレス用のモータドライバ,ベクトル制御は勉強中です.

*1:自分の周りでは

*2:電動機,油圧モータなど特定のモータ形式を示すものではないがここでのサーボモータは電動機,検出器,制御装置を備えたものを指す

*3:日本で最も有名であろうモータ,ロボコンではRS,RZシリーズがよく使われる

*4:Electric Speed Controllerの略